空しか、見えない
 宝もん、か。
 その割、環のはずいぶん手垢まみれで汚れているではないか。
 けれど環自身は、ずいぶんとかっこ良くなった。日に焼けて引き締まった体付きで、黒い薄手のダウンがよく似合っている。おしゃもじを下げているのが、明らかに洒落だとわかるような、どこか堂々とした佇まいだ。
 隣の座席に、座ってきた。

「サセ、久しぶりだな」

 環の優しい声が、身にしみる。
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