トルコの蕾
男の言葉に妙に説得力があるような気がして、太一は恐る恐る聞いた。
「…奪った経験、あるんですか?」
男は少し黙ってバーボンを一口飲み、ゆっくりとカウンターに置いた。
「俺の嫁だ」
男はそう言って太一の肩をバシッと叩く。
そして太一をしっかり見据えて言った。
「元は、親友の嫁だった」
太一は一瞬、大きく目を見開いた。
「ま…まじっすか…。すげぇ…」
男はテレビ画面のサッカーに釘付けで、太一が驚くのもお構いなしに強い酒を飲み続けている。
男はテレビ画面を見たまま言った。
「女はな、無理矢理奪っていいときだってあるんだ」
「ただし、」
「幸せにしてやる自信があるんならな」
太一は黙ってそれを聞いていた。
真希を幸せにしてやる自信。
エレベーターの前で男と抱き合っていた真希を思い出し、太一は「クソっ」と呟いた。