トルコの蕾
正樹は大きな浮き輪を膨らませながら、部屋に来てから明らかに様子がおかしい絵美をちらりと横目で見た。
なぜか床に正座した絵美は、正樹と目が合うと真っ赤になって目を逸らす。
「あのさ」
あまりにも喋らない絵美に痺れを切らして正樹は言った。
「もしかして緊張してる?」
絵美は黙って頷くと、突然「ふぇぇん…」と泣き出した。
「えっ?!何、どうした?!…大丈夫か?!」
正樹が驚いて絵美の側に寄ると、それに驚いた絵美が「キャア!」と声をあげてドテッと床に転がった。
「わっ!ゴメ…!」
正樹はそれにつられて、床に転がった絵美に覆い被さるようにドサッと転ぶ。
正樹が床に両手をつくと、ぎゅっと目を閉じてグスングスンと鼻を啜る絵美の顔が目の前にあった。
正樹は思わずふふっと笑った。
「絵美ちゃん、目、開けて?」
絵美はぶんぶんと首を振る。
「嫌だっ」
「なんでだよ」
絵美は黙ってズズと鼻をすする。
「…俺のこと、恐い?」
正樹は指で絵美の涙を拭いながら聞いた。
「…俺のこと、嫌い?」
絵美はまた、ぶんぶんと首を横に振る。
「じゃあ、好き?」
絵美はこくりと頷いた。
正樹は思わずぷっと吹き出しながら「可愛い」と呟くと、そのまま絵美のおでこにキスをした。