トルコの蕾
「真希さん、あなた、勘違いしてる」
太一によく似た口元が、震えながらそう言った。
「…えっ?」
真希は振り払おうとした手を止め、彼女の言葉に耳を傾けた。
「わたしは、あなたのお母さんの恋敵ではないの」
太一の母親は優しい表情で、穏やかにそう言った。
「少しだけ、座って話をしない?」
彼女はそう言うと、ベッドの脇にある小さなソファーを指差した。
母の恋敵ではない、というのはどういう意味なのだろう。彼女は、ベッドに横たわる人物の、織田輝真の妻ではないということなのだろうか。
真希は黙って彼女に従った。
どうしても、太一によく似た彼女の正体が知りたいと思った。
「…どういうことですか?」
真希がソファに腰掛けて尋ねると、彼女はゆっくり立ち上がり、ポットから急須にこぽこぽとお湯を注いだ。
「彼は、夫はね、あなたのことを本当に愛していたのよ。たったひとりの血の繋がった娘として」
柔らかに立ち上る湯気とともに二人分のお茶が注がれる。
「…たった…ひとり?」
真希は驚いて聞き返した。
「息子さん、…太一さんがいますよね」
太一とよく似た彼女は優しい表情で、「どうぞ」と言ってお茶を手渡すと、ふっと微笑んで言った。
「太一はわたしの連れ子なの。…再婚なのよ、わたしたち」