トルコの蕾
「真希も大人の女になったよな。五年前はもっと初々しくてかわいかったのに」
ベッドの横で真希が慌ただしく下着を身につけるのを眺めながら武が言った。
「二十二が二十七になったんだから当然でしょ?それにあの頃は真っ白だったもん、あたし」
真希はブラジャー一枚で武に背を向けたまま、ベッドに腰掛けてスキニーパンツに脚を滑り込ませる。
「真っ白?」
真希の背中は細いけれどうっすら程良く筋肉がついている。
服を着ていたら単に細いだけの華奢な肩から腕のラインも、裸になると思った以上に筋肉質だとわかる。
妻の麻里子のどこまでも女性らしい柔らかな身体とは、見た目も触り心地もすべてが違う。
「そう、真っ白。少なくともこんな嫌な女じゃなかった」
真希はため息混じりにそう言うと、武をキッと睨みつける。
武は目を閉じて笑い、今日の真希とのセックスを思い出した。
「あたし、武とセックスするのは好き」
真希はいつもそう言って屈託もなく笑う。
「だけど武みたいな人と、結婚したいとは思わないの」
ベッドの中で、武に抱かれながら口癖のように真希は言う。
「あたしはね、結婚するなら一途な男がいい。愛してもいない他の女とセックスなんかしない、性欲もあんまりない男がいいの。あたし以外の女に勃たない男」
「そんな男はこの世にいないよ」
「じゃあ結婚なんかしない」
「…真希はわがままだな」
武はそう呟いてクスクスと笑ってベッドに転がった。
「お前といると、飽きないよ」
真希は聞こえなかったふりをした。
素肌にタートルネックのニットをかぶり、コートを羽織って立ち上がる。
「あたし、もう帰る。武も早く家に帰れば?」
武はベッドに寝ころんだまま、あははと笑いながら言った。
「真希はヤり逃げの常習犯だな」
真希は黙ってホテルの扉を閉めた。
「…もしもし、タッちゃん?…迎えに来て欲しいんだけど…うん。…待ってるから…」