トルコの蕾



「なあ、真希、覚えてる?」



はあと小さなため息を吐き出して、太一はぼんやり遠くを見るような目をして言った。



「何を?」



真希は自分の言ったことに対して何も答えてくれない太一に少し苛立ちながらぼそっと聞いた。



「俺たちが初めて喋ったときのこと」



太一は少しだけ笑顔になって、思い出すような口調で言う。



「覚えてる。たしかタッちゃんがあたしのこと、『マダマキ!』って言ったんだよね」



真希も遠い昔の記憶を辿りながら、坊主頭の太一を思い出して少し笑った。



「そうそう。真田真希なんて、親がギャグで付けたとしか考えられない」



太一はそう言ってまた笑う。



「違うわよ、失礼ね」



真希は強めの口調でそう言いながら、右の眉をつり上げた。



「結婚したら、真田の苗字がなくなっちゃうからって、母さんが」



結婚したら。真希はぼそっと小さな声でそう呟いた。



「結婚しなきゃ、一生お前はマダマキのままだぞ」



太一は笑いながらそう言うと、人差し指でトンっと真希のおでこをつついた。



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