トルコの蕾
「っっちょっともう、やめてよ。子供じゃないんだから」
真希は太一の手を振り払いながら言った。
「一回触ったら百円だからね」
真希は太一を睨んで言った。
太一とはいつも一緒にいるのが当たり前になっていて、少し指先が触れただけでドキッとするなんて、自分でも思ってもみなかったのだ。
太一は昔のようにいたずらっぽく笑う。
「じゃあ千円払うから十回触ってもいい?」
「バカ」
「じゃあ一万払うから」
「タッちゃん、ほんとバカ」
真希が下をむいてため息をつきながら呟く。
顔を上げると、太一の顔が真希の目の前にあった。
「わっ!!タッちゃ…」
真希は思わず目を閉じた。
ほんの一瞬、だけど確実に、真希の唇にあたたかくて柔らかな何かが触れて、そっと離れた。
今まで感じたことのない、ふわりとした柔らかな感触だった。
「すいません。一万、ツケでいいっすか?」
太一がおどけて笑いながら言った。運転席から無理に乗り出していた体を座席によいしょと戻しながら。
「…バカ」
真希は小さな蚊のなくような声で、そう言い返すのがやっとだった。