みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
「は?どちらさまですか」
眉根を寄せて返した私が受話器を置こうとすれば、そこから聞こえる笑い声。
「朱祢、分かんない?」
「……しゃ、社長ですか!?」
訪問者のリストに入るわけのない人だと判明し、思わず声が裏返った。
「なっ、なななんでここ」
「大丈夫?声が残念なんだけど」
「な、なぜ、こ、こちら!?」
言葉を継ぐこともままならない中、受話器越しに聞こえる声は楽しそうだ。
「開けて?」
「な、なぜ!?」
「ロック開けないなら、どうしようかな」
「ひっ、いま開けます」
動揺が収まらず情けない金切り声を上げて、直ちにオートロックを解除した。
鼓動がバクバクと速まっていた私は受話器を戻してから数秒後、はたと気づく。
言われるがままなぜ開けた?いや、それよりこの格好で会うのかと。……無駄にテンパった自分、本気であり得ない!
慌ててクローゼットからスキニーデニムを出し、ショートパンツから履き替えた。
窓際で室内干しをしていた洗濯物は寝室へ投げ込む。他にすべきことはあるのに、混乱がそれを阻んだ。
すると無情にも、そこでインターフォンが鳴り響いた。――少しは時間稼ぎとか気遣えないのか。
ドアスコープを覗けば、お早いご到着に脱力する。諦めてロックを開錠し、手にしたドアノブを押す。
ガチャリ、と音を立て開いた扉の先には社長が待ち構えていた。