みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
里村社長の時と違って、どうして今は上手く立ち回れないのか。これを惚れた弱みと言うべきか。
「もういい加減、貴方も前へ進むべきです」
そう言ってスマホを離した社長は、私のそれを自身のスーツの胸ポケットへ沈めてしまう。
「返して下さい」
「なんで?」
それどころか、片腕での拘束に右腕までプラスされてますます彼と密着させられた。
「それはこちらの科白です」
さすがに自由な足をジタバタとしたが、それも耳元でわざと一笑に付される。
「朱祢のものは俺のもの」
「ジャイアニズムを正当化しないで下さい」
「今、要らないでしょ?」
「盗人ですよ」
「ぶっ、ぬすっとって!朱祢っていつの時代……」
「とっ、年下に失礼ですよ!」
“ああツボった……!”と、頭上でけたけた笑われると些か腹立たしいものだ。
――これがほんの数分前まで、冷たい表情と声を響かせていた人なのか?
「大体、離して下さい。セクハラですから!」
「それなら、辞めるのも取り消しだ」