みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
頬を生ぬるいものが伝った瞬間、重なっていた唇が離れた。そして骨ばった指先が頬をそっと撫でる。
「朱祢はどうしたいの?」
キス後とは思えないほど落ち着いた声で放たれたひと言に、堪えていた涙がまた溢れていく。
「……あ、かね、」
「俺は渡すつもりはない」
「や、辞めます。邪魔になるから……もう、嫌」
――本命はもちろん、私までこのまま手元に置くつもりなのか。
考えがようやく分かって心はどうしようもなく痛み、震えた声でしか告げられない。
「ふざけんな!」
「わ、たし……身代わりなんて」
「あかねの身代わりなんて俺が言ったか?言ってねえよ。
そもそも人の言うことより、騙してたヤツの言うこと信じたのは誰だ!」
精彩を欠いた口調に肩がビクリと跳ねる。これほど乱暴な口調で怒鳴られたのは初めてだった。
先ほどまでの甘い余韻は打ち消され、顔を挟むように手を資料棚に置く彼のせいで身動ぎも出来ない。