みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
強がりや平常心なんて言葉さえ浮かばずにいる私。余計に涙は止まらず、目の前の男に“弱気な朱祢”を晒しているだけだ。
「あか、ねさ」
「あかねは後輩、……透子のつながり。
里村さんはあかねを通じて透子と知り合ってるんだ」
あかねさんや里村社長についてより、低い声で紡がれた名前で動揺する。
「透子には聞いてなかった?」
「な、んで」と、嘘のように涙がピタリと止まった瞳が薄墨色の眼差しを捉えた。
「――朱祢は妹だろ?」
「な……、んで」
「もちろん俺も知らなかった、つい最近まで桔梗谷さんの娘だって。……透子は最期まで言わなかったしな。
こちらとしては、朱祢がいつ本当のことを言ってくれるか待ってた」
あっさりと告げられた事実をとても呑み込める訳がない。
キス後のしっとり濡れた唇は小さく震え、頭の中も真っ白だ。
「それなのに逃げようとするから聞くまで。――どうして俺のところに来た?」
「っ、」