短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~
「怖かったよぅ、ウゥ…」
怖くてたまらず、この寒いのに布団を飛び出してきたのだろう。素足に薄いネグリジェ1枚のスミレが震えているのは、怖さのせいだけではない。衣服ごしに、スミレの裸足の氷のような冷たさが伝わってきた。
「悪い夢を見たのですね。でも、もう大丈夫ですよ」
「今日はもう、榊と一緒に寝る」
「え、それはちょっと」
お父様のところへ行きましょう。榊はそう言いかけたが、一回りも年下の後妻をめとったばかりの父親は「忙しい」ため、夜は決して入室しないよう固く言いつけられていたことを思い出す。
この屋敷には部屋が数えきれないほどあるのに、まだ小さなスミレが安心して眠ることのできる部屋は一つもないのだ。
とはいえ、自分の煎餅布団にご令嬢を寝かせるわけにもいかない。
「お部屋に戻りましょう。私も一緒ですから、化け物が来ても大丈夫です。私、こう見えて意外と強いのですよ?」
榊はそう言って、自分の寝ていた布団ごとスミレを抱き抱えた。