短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~

恵一は計算書を一瞥すると、何の迷いもなく財布から紙幣を出す。
今まで見たこともない量の紙幣に、雪音は言葉を失った。家を一軒借りるのに、こんなにお金が必要だなんて、知らなかった。そんな大金を涼しい顔してポケットに忍ばせていた恵一の横顔が、出してもらってる分際で申し訳ないけれどなんだか悪い人のように見えてくる。

「雪音、契約書に住所と名前を」
恵一に促されてやっと気を取り直し契約書に書き始めた雪音だったが、すぐにペンが止まった。

「・・・保証人」

子供の頃から施設で暮らしていた雪音には、保証人になってもらえるような親族はいない。

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