短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~

「は?」
一本気な性格の雪音は、開いた口がふさがらない。
さっき恵一には、「赤の他人だ」と言われたばかりだ。

雪音の困惑とは裏腹に、店主は一転納得の表情を浮かべた。

「あぁ、そうでしたか!お兄さんね!」

「えぇ。妹が突然、上京して就職することになりまして」

真に受けた店主に気を良くしたのか、恵一の作り話は絶好調。
肩をすくめて苦笑い。妹に振り回される人の良い兄になりきっている。

二人の駆け落ちライフを妄想していた店主は、一人で顔を赤らめながら、
「そう言えば似てますよ、口元とかそっくり!」
などと取り繕っている。

「えぇ、よく言われます」

盛り上がっている二人を尻目に、雪音は複雑な表情を浮かべた。

「ちょっと!嘘は良くないんじゃ・・・」
店主が席を立った隙を見て小声で抗議したが、恵一は表情を変えなかった。

「色々詮索されたくない」


・・・確かに。
雪音はそれ以上、反論する余地がなかった。


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