911の恋迷路

 「いつも、と言っても2、3度しか顔を合わせた事なくて。
  俺、最低な当てつけばかりしていたから」

 
 生まれてきた事を何度も恨んでいた、


 と言って慎は人ごみに目を向ける。

 
 「この中のどのくらいの人が、
  死んでもいいくらいの恋をしているんでしょうか?」

 「え」

 慎の呟いた言葉に、

 カフェオレを飲もうとした果歩の手が止まる。


 「父は死ぬ気で母を愛していたと言っていましたから」
 
 

 だから駆け落ち同然で私財の殆どを元妻に渡したのだと言う。

 「不況の今の時代だったら、もっとうまくやれよ、と言われますね」

 「愛していたんだね……」

 

 死ぬほど愛している。
 
 そう言い切れる人はこの時代に何人いるのだろうか。

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