911の恋迷路
「失ってみて、『死ぬほど愛していた』と気づく人は多いかもしれない」
果歩はもっともらしい事を口にしている自分を嘲笑う。
「果歩さんは、兄を、陵を死ぬほど愛していましたか?」
鋭い質問。
そして、初めて「果歩」と名前を呼んだ慎の意図に、
果歩は甘い予感を感じずには居られない。
「陵くんは……あたしにとって、かけがえのない人だった」
過去形。
今と違うあの心の奥から湧き上がってくる、
身体全体を潤す感覚を、果歩は今。
陵とは違う人に感じている。
目の前の昔の陵の空気感を残している男性に感じている。
「今は違う……似た人が好きなの」
「…似た人? 今の彼氏?」
果歩はカフェオレのカップを両手で包んで、目を閉じる。