スピリット・オヴ・サマー
「言いたくなかったら…、」
「言わせて!」
 気遣ったつもりの憲治に、聖菜の声は強かった。涙の気配で震えていたが、その声は強かった。
 今まで見たことのない聖菜の強気が、憲治の眼には更に美しい聖菜を映し出す。
「先輩が私を、中学時代の私を抱きしめて、泣いてた。私の名前、何度も、何度も呼んで、死んだみたいに動かない私の身体抱きしめて、キスまでして…。」
 サイダーの缶を握り締める聖菜の手の甲に一粒、二粒、光る雫が弾けた。憲治は沈黙した。
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