スピリット・オヴ・サマー
 聖菜は泣き濡れた瞳を憲治に向け、震える手で口元を抑えながら今一度、さわらないでください、と小さく言った。
「今でも、もしかしたら先輩を憎んでいたかも知れない。でも、あれが幻だとしても、あんな先輩を眼にしてしまったら、もう、私は先輩のこと責めることなんて出来ない。」
 聖菜は自分の涙で時折少しむせながら、更に続けた。
「私、前に話した文芸部の先輩と、…寝ました。でも、捨てられた。独りぼっちだった。私を捨てた人たちを恨んでいれば、寂しさも少しは薄れたのに、なのに、あんなに、あんなに私の名前を呼びながら泣き叫んで…、」
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