アイの在り方
…………ハァ。
結局、高ぶっていた感情もあの人のせいで冷めきって飛び降りる事なんか出来なかった。
だからと言って別の場所で死ぬなんて腹が立つからやらないけど。
秋になってから空は暗くなるのが早い。風も冷たくて虚しいやら悲しいやらわからないぐらいに心が空っぽになってる気がした。

あたしが、生きていても喜ぶ人なんかいないし居なくなっても困る人はいない。
家出同然で親の顔なんて5年は見てないし元気なのかすら知らない。友達だっていない…―
暴力を振るう彼にだけしか頼れる人はいなかったし、付き合い始めはそんな事されたりしなかったし…―

「やっぱ…死ぬしかないのかなぁ…」

暗くマイナスな事を考えながら辿り着いたのは怒る彼が待つアパート。足取り重く階段をゆっくり上るとゴクンと唾を飲み込みドアを開けた。

「……ただい……ッ」

ゴインッと鈍い音と痛みが帰るなり早々体を走った。
玄関に頭をぶつけて崩れ落ちるあたしの前に彼が見た事ない程の怒りに満ちた顔で見下げている。
拳をブルブルと震わせて次に殴る準備をしていた。

「………ごめんなさ…」

口の中が血の味で苦い。舌を噛んだんだ…―
謝る暇なく拳は躊躇なく飛んで来た。今度は靴箱に倒れこんで靴がバラバラと落ちて来た。
あたしの靴と彼の靴が頭に落ちて直接当たらないように手で庇いながらうずくまる。

「どこにいた?」

「え……?」

…………―ガシャン

血の気が引いた。グラスを投げられていたんだ…―知らずに破片を掌で押さえてしまって血が溢れている。

「俺が電話した時はすぐに出ろって言わなかったか?あぁッ!」

「い…言われました……」

「じゃあ…」

目を見開いて彼を見上げた時には2個目のグラスが既に顔の前へ投げられていた。

………そこから記憶はない。

目が覚めると、もう朝が来ていてカーテンから光が差し込んでいる。起き上がろうとすると激痛が走った。恐る恐る目元を触ると驚く程に腫れていてぶよぶよしている。

「………鏡」

何とかあちこちの痛みに耐えながらバッグをあさり鏡を見て言葉を失った。片方の瞼が紫色に腫れて目がまともに開けられない。

「……バイト行けないじゃん」

< 4 / 19 >

この作品をシェア

pagetop