薄紅空
あの歌を、聞いていたのだ。
「聞き苦しきもの・・・お聞かせしてしまいました。」
「良い。して、そなたは雨が好きか。」
「・・・。正直に申せば、雨は好きです。この冷え冷えとした、澄んだ空気は、御光のもとでは決して感じることができません。」
露は、なおも続けた。
「何よりも、雨の後、木々についた雫や水の粒が、陽の光を受けてきらきらと輝く景色が、私は好きなのです。」
露の言葉に、月都の宮はしばらく黙って目を閉じていた。
(やはり、いけなかったのだろうか。陽の化身であらせられる、月都の宮様の前で、こんなことを言って・・・。)
「露。」
月都の宮が、露の名を短く呼んだ。
「はい、月都の宮様。」
「そなた、私と共に宮に来ぬか。」