不機嫌に最愛
「どうした?俺がいなくて、……寂しかった?」
困った表情の梓希先輩の指先が、私の頬に触れて
毛布を被っていることも忘れて、梓希先輩に抱き付いていた。
「……おかえりなさい。梓希先輩、遅すぎです。」
「え、……あ、うん。ごめん。」
急に抱き付いたのに、……仕事だからしょうがないのに、遅いのを責める私を梓希先輩は受け入れてくれる。
……けれど、なんだか歯切れが悪い。
「梓希先輩?」
「…………っ、」
何か言いたそうな雰囲気なのに、何も言わない梓希先輩に私はそっと体を離して見上げてみる。
「え……っと、萌楓さん?耳と尻尾ついてるんだけど、」
「へ、…………っ!!」
忘れてた。
私、今、ネコだった。
たぶん、抱き付いた時にくるまっていた毛布から、気付かないうちに抜け出しちゃったんだ。
「えっと、……にゃーお?」
「なんで、ネコ?可愛いけどさ。」
とっさに、手をグーにして招き猫みたいにネコポーズを取った私に、梓希先輩は優しく笑って。
カチューシャの猫耳に触れて、そのまま髪の毛をサラサラと指先で弄ぶ。
「……お菓子くれなきゃ、イタズラしちゃいますよ?」
「あー、ハロウィン、か。」
やっとわかってくれた梓希先輩にほっとしながらも、どうしよう、しか考えられない。
だって、無計画だから、次何したらいいかわかんないし。
とりあえず、ネコポーズはおしまいにして、梓希先輩を見上げると、苦笑いした梓希先輩は、
「ごめん。お菓子は無いから、……イタズラしていいよ?」
ベッドの横に座り、コートを脱いで……私を見つめ返してくる。
……その顔が、何か企んでる顔で。
さっきまでの苦笑いが嘘みたいに、大人の色気駄々漏れのニヤリとした表情の梓希先輩に、……胸が締め付けられた。
ただでさえ梓希先輩を好きすぎる私に、その顔は刺激が強すぎて、……これ以上好きにさせないで。
「っ、梓希先輩のバカ。」
隣に座る梓希先輩の腕を引いて、……そのままベッドに倒れ込んだ。
端から見れば、梓希先輩が私を押し倒してるように見えるけれど、実際は私がそうさせていて。
突然のことに、声も出さずに驚いた表情の梓希先輩を更に引き寄せて、離れないよう首に腕を絡ませ、私から唇を重ねた。
チュッ、と音をたてて重ね、ペロリと梓希先輩の唇を舐めれば……微かに開いた口の中に舌を挿し入れてみる。