ワイルドで行こう
二階自宅での夕食が終わり、英児はリビングのソファーで新聞を読んでいる。
キッチンには夕食後の片づけをしているエプロン姿の琴子。残業期間が終わったところで、今日は久しぶりに彼女の手料理が食べられた日だったのだが。
新聞のスポーツ欄を眺めながら、英児はさりげなく呟く。
「琴子、無理しなくていいんだからな」
「え、なにを?」
さらに英児は新聞をみつめたまま。
「お前だって朝から働いているんだからさ。残業が続いてやっと解放されたところなんだから、疲れていたら無理して家事を頑張らなくてもいいからな。夕飯だって、外で食べたっていいんだから。それに俺も一人暮らしが長かったからある程度は自分で出来るだろ。そこのところ、ちょっと頼ってくれても全然平気だから」
なんでも頑張ってしまう性分の琴子。それは出会って恋人として付き合うようになってから、いろいろと目の当たりにさせられたものだった。しかも同居を始めたばかり。彼女のこと、英児に気遣って頑張ってくれているところもあるに違いない。だからこちらから気にしておかねば――と、思っているところ。
彼女が気にしないよう、新聞を読んでいるついでに言ってみた――。だがキッチンにいる彼女からなんの反応もない。暫く二人の間に静けさ……。だからつい、英児は紙面から顔を上げてしまった。
「琴子?」
だがキッチンには、にっこり笑顔の彼女がちゃんとこちらを見てくれている。
「うん、ありがとう」
「お、おう……。お前のメシ食えて嬉しかったけど」
「でも。私も疲れていたから簡単なご飯にしたつもりだから」
「いや、すげえ美味かったよ。お前の牛丼と浅漬け、それにアサリの味噌汁。相変わらず、なんでも美味い。大内のお母さんがしっかり仕込んだもんだと、いつも思っているよ」
「それなら、良かった」
ふきん片手に彼女がリビングのテーブルにやってくる。インテリア感覚で置いていたローテーブルをとりあえずの食卓にしている。床に跪いて、低いテーブルを楚々と拭いている彼女の姿。
「こんな小さなテーブルじゃなくて、ダイニングテーブルでも揃えるか」
ふと思ったことを言ってみると、そこで彼女が嬉しそうな顔をした。
「ほんとに。私もそうしたい」
「このソファーセットを、前のベッドがあったあそこに移動させて、ダイニングはキッチン前のここに置こうぜ。よっし、明日は俺が事務所まで送り迎えしてやるから、帰りは家具屋へ直行だ」
そこまで言い切ると、エプロン姿の彼女が笑い出す。