ワイルドで行こう

「もう。英児さんって本当に思い立ったら直ぐよね。今のベッドもあっという間に買ったから、びっくりしたこと思い出しちゃった」
「なんだよ。出来ることなら直ぐやった方が良いだろ」
「そうだけど……。迷いがないって、前から羨ましいと思っていたの」
「俺って、変か?」
 それが当たり前と思っていたのが、確かに堅実で慎重な彼女から見ると無鉄砲に見えるのかもしれないとも英児も急にそう思った。
「変じゃないわよ。そんな英児さんが私は好き。ずっとそんなところ素敵で格好いいと思っていたわよ。出会った時から、あ、違った……」
 そこで彼女がハッとなにかを思い出したように口元を塞ぎ、英児から目線を反らしてしまった。でも英児には判っている。
「初めて出会った時は、嫌な顔をされて逃げられたんだけどな」
「もう、それ言わないでよ」
 容易く元ヤンキーと敬遠したことが今でも申し訳ないようで、琴子はさらっと流してキッチンへ戻っていく。
 だが、片づけが終わったのか。琴子はその後すぐに、ソファーで新聞を読み続けている英児の隣へと座った。
「でもね……」
 肩がすぐに触れあうほど傍に来たエプロン姿の彼女。ちょっと照れくさそうにして、何か考えあぐねている様子。
「なんだよ」
 読んでいた新聞を手放し、英児は傍に来た彼女の肩をすぐさま抱き寄せた。男の腕にぐいっと抱き寄せられる彼女も、そのままくったりすべてを預けてくれるから、英児はさらに彼女を胸元まで抱き寄せてしまう。
 英児の腕の中、胸元でやっと琴子が柔らかに微笑んでいる。
「でもね……。あの時はすごい車に乗って夜中に走りに行くような男の人は怖いと思って逃げちゃったんだけど。次の日にコートを届けてくれた英児さんのこと、私、忘れられなかったんだから」
 え、そうだったのかよ。と、初めて聞く彼女の言葉に英児は驚いた。
「……あの時、言ってくれたでしょ。『力尽きるまで頑張った女の匂いは色っぽいんだ。その匂いがしたんだ』って。そう言ってくれたことがずっとずっと私の耳に残っていたの。エロティックな例えだったけど……一生懸命男と愛し合った女と、くたくたになるまで働いた女の『一生懸命』は一緒。だから、色っぽい匂いが身体からするよ、て……。英児さん、そう言ってくれた。あの時すごく嬉しかった。もう一度会いたいと思っていたけど、やっぱり二度と煙草屋では出会わなくて……」
「そ、そんなふうに俺のこと……?」
 俺だってもう一度会いたかったよ。でも……諦めて、なんとか割り切って忘れようとしたんだ。そう彼女に言いたいが、驚きで声にならなかった。まさかあの後、嫌われているだろうと思っていた琴子も、英児の姿を探してくれていただなんて。

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