ワイルドで行こう
「旦那になる自分より、母ちゃんを頼られたんでショックなんだよ。このガキは」
矢野じいの口悪に、武智がちょっと笑う。
「女同士だからさあ。男は割って入れないもんがあるよ。今回みたいに……。しかも琴子さんのところは、母娘で支えあって暮らしてきたんだから」
「そうだ、そうだ。母ちゃんは、最後まで味方。最強なんだよ。おまえ、一生勝てねえと決定しているんだから、いい加減諦めろ」
「うるさいな。そんなあったり前のことわかっているって」
ただ、寂しいだけなんだよ。独り寝があんなに侘びしいだなんて、独りの時以上に染みいったんだよ! 家の中が静かで、彼女の匂いだけが残っていて、傍に触れたい安心できる体温がなくて。こんな、独りの時より寂しかったことが、ショックだったんだよ!――とは言えず、ただぶすっとしているだけなのに。ここの男共はお節介みたいにいちいち勘ぐって……と文句を言いたくなる。
でも、まあ。今夜は彼女の家に行けるからいいかと、口うるさい親父に生意気後輩の目線から解放された時だった。
「おー、客が来たぞ」
龍星轟の店先に、水色の日産車が入ってきた。その車を見て、武智が呟く。
「あ、香世ちゃんだ」
英児もハッと我に返って、手元にある『本日の顧客シート』をパラパラとめくる。
「わ、今日だったのかよ」
どんだけ琴子のこと頭いっぱいにして、仕事に身が入っていないか思い知る。
日産マーチが事務所の入り口前に駐車した。運転席から女性が現れる。
「英児君ー」
黒髪を束ねている眼鏡の女性が手を振っていた。
―◆・◆・◆・◆・◆―
それっていま流行なのか。と、聞きたくなるぐらい。香世も琴子が着ていたようなアーガイル模様のロングニット姿でびっくりする。
だけれどこちらは主婦らしくデニムパンツとのコーデ。そして後部座席にはチャイルドシート。そこに小さな男の子がちょこんと座っていた。
「末っ子だろ。でかくなったな」
眼鏡の香世がにっこり笑う。
「うん、もうすぐ三歳なんだ。英児君がこのまえ見た時は、生まれたばっかりだったもんね」
ママが運転席を降りたので『僕も僕も』と言わんばかりにジタバタしている。
「やんちゃそうだなー」
「もうね。お兄ちゃんがいる末っ子だから、なにもしなくてもなんでも覚えちゃって生意気なのよ」
それを聞いて英児は顔をしかめる。
「デカイ兄貴がいる男三人の末っ子って。俺みてえじゃん」
「そうなの、そうなの! 私もそれに気がついて、そういえば、この子と英児君って重なるなあーーって思っていたの!」
だがそこで、香世は暴れている息子を見て優しく笑う。