ワイルドで行こう

「お父さん、なにを怒鳴っているの。また小鳥ちゃんと?」
 二階自宅から、琴子が降りてきた。それだけじゃない。
「なんだよ。姉貴、レビンさらうのを、また失敗したのかよ。だっせーな」
「また姉ちゃんだ」
 長男の聖児と末っ子の玲児も、母親にひっついてきた。だが英児はここで顔をしかめる。
 母親の琴子が娘と夫の諍いを案じてやってきただけならともかく。十七歳になった長男と、中学生の次男。そして一番上の子、小鳥。これが『車のことで集う』となると――。
「だって……さ、もう乗ってもいいでしょ。ハチロクにずっと乗りたかったこと父ちゃんだって解ってくれていると思っていたのに」
 解っているつもり。自分も小鳥の年齢になってすぐ、車を手に入れて峠に飛び出していったのだから。
 だが、父親として娘を案じているのは何故かは、娘は知らない。そして英児も言えない。
 お前がいい匂いがする大人の女になったから、心配しているんだとか……。そんな娘が娘ではなくなるようなこと、自分からいいたくない。
 傍でじっと黙って見守っている女房の琴子。彼女はこんな時は父親の英児に任せて、あまり口出しはしない。でもじっと子供と父親のやり取りから目を逸らさない。いつも。
「レビンは俺も狙っているんだから、俺が卒業してから、姉ちゃんが乗るか俺が乗るかを決めて欲しいんだよ」
 長男もレビン狙い。先に免許を取れる年長というだけで、姉貴に一足先に持って行かれるのが悔しいらしい。
「父ちゃん、俺は母ちゃんのゼットがいい。だから母ちゃんに新しい車を選んであげてよ」
 末っ子だけに、琴子が運転するゼットに良く乗せてもらっていたせいか、次男はフェアレディZ狙い。
 子供の頃から、父親に乗せてもらってきた年代物の車。もうどこにも走っていない。あまり見かけない車。でも、知っている人は知っている車。プレミアムで父ちゃんが発掘し、常に手入れが行き届いている『走り屋の車』!
 それを子供達がよく知っていて、なおかつ、古い車を知って愛着を持ってくれるところに胸が熱くなってしまう……。
 だが、そこはグッと我慢の親父心。

< 402 / 698 >

この作品をシェア

pagetop