ワイルドで行こう

「英児さん、お願いがあるんだけれど」
 もうお仕事モードになってしまった奥さんに諦めをつけて、英児は朝食の席に戻る。
「なんだよ」
「金曜日と土曜日の週末、スカイラインに乗って仕事に行ってもいい?」
 彼女が時々望むことだった。
「ああ、いいけどよ。どうした急に」
「気分転換。土曜も休日出勤になってめげそうなの。でもスカイラインに乗っていると英児さんの匂いがいっぱいで嬉しいから。いま疲れているからちょっと一緒にいたいの」
 そんなふうにいわれてしまうと、英児もなし崩して、『ああ、それならいいぞ』と微笑んで許可をした。
「ありがとう。久しぶりのスカイライン、楽しみ。お仕事の書類とかちゃんと降ろしておいてね。行ってきます」
「わかった。行ってこいや。無理すんなや」
 『はい』と、いつもの奥さんの笑顔になって琴子が出掛けていった。
 もう、なんなんだよ。朝から嬉しいことばっかりいいやがって。
 ああ、もう俺は琴子には敵わねえんだな――。
 情けないと思うどころか、ひとりでニマニマしている顔が珈琲の水面に映っていた。

 

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