ワイルドで行こう

 夜が更け、ぐったりした琴子の隣で彼が暗がりのなか煙草を吸っている。
 その匂いがどうしてか魔法を解く匂いのようにして、琴子の目を覚まさせる。
 枕を背に腰を掛け、膝を立てて、煙草を吸っている彼は、金髪でも短髪でも……、琴子がよく知っている夫の横顔だった。
 その英児がじっと部屋のドアをみつめていた。ちょっと怖い顔で。
「琴子が俺に夢中でよかった。安心した」
 微笑みはもう、琴子が好きになった元ヤン兄貴の頼もしいものだった。
 そこで琴子は気が付いた。
 そういえば、去年のこの時期だった。琴子と英児の秘め事の場に、知らない女が踏み込んできたのは。あれは……凍り付いたし、怖かった。
 それを琴子が思い出さないかどうか心配していたの?
 それを思い出させないようなことをしてやろうと思っていたの?
 ちょうどいい。琴子がそれで気が逸れるなら、やってみるか――って、わざと悪ガキの姿に戻ってくれたの?
 そんな気がしてしまった。でも、もう……二人の間であのことは言葉にしたくないし話したくない。琴子も思い出したくないし、これで忘れたい。

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