牛乳と猫スーツ。
「あなたが好き。」
一際強い風が吹く。直樹は硬直していた。
「俺が…好き?」
「そう、直樹が好きよ。」
気になっていた人だった。それはなぜかわからない。遥のことが好きなのかもしれない。ただ、そんな直樹を縛り付ける物があった。時折、夢でみる初めてキスした女の子。彼女の存在が、直樹の恋する気持ちを縛り付けるのだ。彼女が誰なのか、それを知ることができない内は恋をすることができない。
「ごめん。」
「え…。」
「俺、昔のことよく覚えてないんだけどさ、たまに夢にでてくる子がいるんだ。その子が誰なのかわからない限り、俺は誰かを愛することはできない。」
「そう…なんだ。」
遥はうつむいてしまう。
「遥、俺は―――」
「なら、その思い出を断ち切って、直樹。」
「え?」
いつも話している声と違った。そして遥は眼鏡を外す。
「ねぇ…直樹、選んでよ。私か、それとも…。」
遥が十字架のシートを掴み、引っ張る。シートは風に舞い、どこかへ飛んで行った。
「この子か。」
「なっ!?」
十字架にはキリストのように拘束された彩華がいた。
「遥……君が…。」
「白黒つけて、直樹。」
口を歪めて笑う遥。
「さあ、直樹!選びなさい!!」
悪魔のように笑う遥と捕らわれの天使のような彩華。