牛乳と猫スーツ。
「教師ってこと忘れてません?」
工具を片付けながら言う蓮。
「ねぇ、蓮ちゃん。」
「なんです?」
「どれくらい悪くなってるの?」
真由香の言葉に、蓮の手が止まった。
「何がです?私はどこも悪くなってませんよ。」
「あら?倉庫のことを聞いたんだけど。」
「…………。」
蓮は黙ってしまう。
「耳だけじゃないわよね、目も悪くなったでしょ。それでもあなたが気づかれずにいるのは、いつも感覚を研ぎ澄ましているから。」
「どうしてわかったんです?」
「たまに殺気を出しちゃってるのよ。とっさに対応したりするときに、ほんの少しだけね。」
真由香の言葉に蓮は苦笑する。
「蓮ちゃん。たとえ明日死ぬ人でも、未来を見てもいいのよ?あなたはまだ、生きている『今』しか見ないの?」
「ええ、見ませんよ。だって私には、大切で掛け替えのない思い出があります。昔、好きな人が言ってくれたあの言葉…。あの日から、私はもう報われてるんですよ。」
蓮は微笑みながら言った。
「その人は今どこに?」
「どこでしょうね。彼には幸せに生きてほしい、ただそれだけ。私は思い出でだけで十分ですから。」
風が吹き、長い銀髪が揺れた。
………………。
………。
…。