SONG 〜失われた記憶〜
 結局、解散したのは夜中の三時を過ぎた頃だった。皆、ベロンベロンに酔って各自、家路を辿る。義人さんは明日、いや今日の仕事に支障が出るといけないので借りていたカーディガンを返し、一足先に帰らせた。

「…寒い」
「着てけ」

 上着を着てこなかったので夜風に当たれば少し寒い。空が着ていた自分のジャケット、黒のライダースを私に投げつけてくれた。煙草の臭いが染み付いている。臭い。

「いいの?」
「…風邪引かれちゃ困るからな」
「ありがとう」

 空のさり気ない優しさに触れてニヤける。

「……気持ち悪ぃ顔」
「……」

 前言撤回。こいつに優しさなんてなかった。

 空はユウちゃんの車に乗って自宅へ帰っていった。私は貰った花束とプレゼントを手にここから歩いて数分の実家へ帰るとする。赤坂の家まで車を十五分、走らせるのが面倒になった。

 夜風の冷たい風が頬を撫でる。少し寒いが、心地よい。女一人、夜道を歩くのは心細いが、不思議と足取りは軽かった。

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