わかれあげまん
やっとそう自分の中で結論付けた柚は、自分をギュッとハグしてるルチアの肩越しに少し苦い笑みを哉汰に投げて小さく頷いた。
「あっ!カナタカナタ♪」
と、突如ルチアが何かに思い当たりハグを解くと、くるりと彼の方に向き直った。
「これ!こないだの晩の、わすれブツ~!」
はいっ、と彼女がジーパンのポケットから取り出したのは、男物の腕時計だった。
「忘れブツじゃない、わすれもの。」
とルチアに冷静に訂正を入れつつも、哉汰は少しばつが悪そうに一瞬だけチラリと柚を見た。
そして憮然とその腕時計を受け取り自分の腕に装着した。
『こないだの晩』…かあ、…
藤宮くん、彼女んちにでも泊まったのかな?…
と心の中だけでつぶやき、柚ははっと我に帰ったように二人を見やる。
「あっ…じゃ、あたしもう行くね?あ、あはは、お邪魔しましたぁ…」
詮索するような思考を廻らせた自分が恥かしくなり、柚は苦笑を投げると二人に手を振り、脱兎のごとく駐車場を後にした。
「…またね~!センパ~イ!」
と最後にその背中に明るく声を投げてきたのは、哉汰ではなくルチアだった。