わかれあげまん
連れ立って出た大学の門の前で、「じゃあ、あとでな」とご機嫌な渡良瀬が、繁華街へ出るためのバス停の方へと姿を消すと。
柚はくるりと踵を返し、俯いたままトボトボとピロティの方へ戻って行った。
下宿に戻れば、飲み会の後でまた渡良瀬が押しかけてくる。
だから家には帰れない。
そう思ったからだ。
大学の制作棟は、制作に勤しむ学生の為24時間開放されてはいたが、そこに居ても渡良瀬が探しに来る可能性も高かった。
かといってこの時間から電車を乗り継ぎ実家に戻るのもあまりに不自然。
柚は完全に行き場を失っていた。
茫然自失した状態に任せ、あてどなくふらふらとピロティに差し掛かった柚は、やがてその奥の真っ暗がりの学食の手前、談話スペースのソファのひとつに、ぽすんと腰を落とした。
はあ。
溜息をついて、それから荷物をその場に取り落とし、両手で顔を覆った。
なにやってんだろ、あたし。
ハタチ超えたいい大人になっといて、…
おなかの中から押しあがってくる漠然とした悲しさ。
堪えきれずに、ウ…ウッ…と漏れてしまう嗚咽が、誰もいない学食にやけに大きく響いた。