わかれあげまん
静まり返ったピロティに柚の短く速い呼吸の音だけがした。
「…ごめん。…今のはねーよな。…俺」
無粋を口にしたことを自嘲するように、僭越さを詫びる哉汰の声がして、けれどそれはかえって柚の忸怩な気持ちを増幅させた。
背を向けたまま項垂れた頭を更に垂れ、小さくなった柚の頭に、哉汰の指が伸ばされた。
またピクリと震えた小さな肩。
ほんの一瞬触れただけで、その濡れ髪が夜の寒風で冷え切っているのを悟った。
なぜ髪が濡れているのか。
彼女が今の自身を、“普通”ではないと告げた意味。
そしてこれ見よがしに首筋に刻まれた刻印が意味することは何なのか。
そして今それを如実に現したように怯えきって身を屈めている柚を目前に。
何も関するなという方が無理だった。