わかれあげまん
「・・・行こう。」
哉汰は凛とした声で言った。
ルチアの事で塞いでいた自分の気持ちのことなど、もう忘れていた。
くすん、と鼻をすすり上げたただけで何も答えようとしない柚の腕を、哉汰は再び強引に掴み、そしてパーキングの方へと歩き出した。
意気消沈した柚はまるで魂が抜けてしまったようにフラフラと引っぱられるまま、やがてはあの哉汰の車の助手席に放り込まれた。
ドライバー席に座ると、哉汰はダウンジャケットを脱いでシートに沈み込んだ柚の身体に無造作に掛け、そしてエンジンを駆けた。
放心状態のままぼんやりと前を見る柚の瞳に、フロントガラスに映りこんだ哉汰の険しい顔が飛び込んできて。
…知られたくなかった。
…こんな、ダメな自分。
情けなさと悲しさの、声にならない涙が頬を滑り落ち、柚はもうこれ以上醜態を見せないよう、哉汰のダウンジャケットの中にもぐりこませた。