わかれあげまん
ちょ…ま、まずいって。
何であたし、こんな場所で、
藤宮くんにこんなひっついてんの…?
などという焦りの雑念が胸のドキドキと一緒に柚を邪魔したのは、最初のほんの数秒。
目の前に広がる冬の夜景の美しさに再び魅了され、瞬く間に惹き込まれて行った。
ほんとに、綺麗。
心が洗われるみたい・・・
やがて静寂を破って哉汰が言った。
「あの灯りのひとつが、俺達の学校のだぜ。」
「えっ!?ほんとに!?」
物凄い辺鄙な山奥まで来たのかと思ったのに。
そんな近所だったんだ…。
「大学の近くに、こんな場所があるなんて知らなかった。…」
「だろ?」
チラリ横を見上げると、哉汰が得意げに笑った顔が少年のように人懐っこくて、柚は面食らった。
慌てて前を向き、佇まいを正すようにしてから改めて質問した。
「こ、ここ、よく来るの?」
「…凹む時なんかにな。」
「え・・・」
と柚はまた思わず、哉汰に視線を戻した。
哉汰もまた柚の方に視線を向けていたが、そこにあったのはさっきのような人懐っこい表情ではなく、あの彼独特の静かで精悍なものだった。
柚は眉根を寄せて。
「…凹んでんの?」
おずおずと尋ねると。
「…。別に。ってか、」
哉汰は言いながら柚の腰に回していた腕を解き、いきなりジャケットのフードを持ち上げズボッと柚の頭に被せた。
「ふげ」
「…あんたがだろ。」
「・・・」
「だから、見せてやろうかなーと思って。」