わかれあげまん
哉汰が車のエンジンをかけ、ヒーターを全開に入れる。
柚は再び助手席にぼふっと沈み込み、ホウッと溜息をついた。
全身が冷え切っているのに、顔だけが嘘のように熱い。
心臓も相変わらずドクドク鼓動を急いでいる。
キス…じゃないよね?
だって、約束したんだもんね?
友達でいてくれるんだよね?…
とめどなくそんな思考がグルグル頭を巡るせいで、エンジンを掛けたきり一向に車を発進させようしない哉汰の不自然さに柚が気づいたのはずいぶん時間が経ったあとだった。
「あ、あれ?…」
柚が焦って運転席をみると、何と哉汰はリクライニングシートをすっかり倒し目を閉じていた。
「ふ、藤宮くん?…帰んないの?」
「ああ。」
ああ、って…
「こ、ここで寝るの?」
「そう。」
両手を首の後ろで組み目を閉じたまま、平然と答える哉汰に、柚は大いに困惑した。
「で、でも」
「今晩付き合ってくれるんじゃなかったのか?」
目を開け横目でチラリと見てくる目は本気で眠気を含み、不満気だ。
「あんたも、今夜は家にはいたくないんだろ?」
「そ、そーだけど…」