わかれあげまん
鼻を衝くルチアのきつい香水の香りに、グラリと辺りの景色がゆがむ。
追い詰められた哉汰は再び絶望的に目を閉じ、現実逃避を図るように、頭の中で自ら思考力を無理やり引き剥がそうとした。
その時、瞼の内側に浮かんだのは。
切り取られたような二人きりの闇夜の中、間近で見た柚の戸惑った顔だった。
怯えていて、だけれど必死に救いを求めるような表情に、刹那だけ胸が震えたんだ。
年齢の割に幼くて、およそ色っぽいとは表現し難いのに。
誘うように甘く優しく、微かに綻びていた、
小さなバラの蕾のような唇。
もしあの時俺が、こびりついた躊躇いを捨てて、
あの愛らしい唇に触れていたなら。
あの人はどんな反応を、俺に返しただろうか。
そして
どんな『今』を迎えてた?