わかれあげまん
パタン、と乾いた音を立て扉が閉められた刹那、哉汰はベッドに後ろ向きにばたりと倒れ込み、両手で額を覆った。
ーーー。
やれやれ、と思ってしまう自分に込み上げる嫌悪感。
深く長い溜息をつき。
なのに閉じた瞼の内をちらつくのはまた柚の姿で。
心底心地よさそうに目元を緩め、キラキラとした夜景に魅入られていた横顔、その光景が、さっきのことのようにまた哉汰の脳内でビジョン化される。
のみならずあろうことかその脳内の彼女はこちらを向いて、天使のように微笑んだ。
ドク。と一度大きく身体全体が脈打つ。
慌てふためいて身を起こしまた愕然と目を泳がせた。
な、…何だよ。
笑ってる場合じゃないっての。
ってーか、
ありえねえって。
自身への困惑に眉を顰め、シャワー後のまだしっとりと濡れた髪をぶるりと振るい、テーブルに手を伸ばして煙草を一本咥え、カチンとジッポーの蓋を弾いた。
とらえどころのない違和感が確かに思考の中を過ぎっていったが。
馴染んだ煙草の紫煙が決め手となってか、程なくいつもの冷静な彼らしさへと、呼び戻されていた。
そう。
この時点ではまだ。