わかれあげまん
小馬鹿にするように言いながらわざとその顔を哉汰に突きつけるようにした渡良瀬に、哉汰は尚も冷静に返した。
「別に。ただどう見ても彼女が嫌がってたんで、助けに入っただけですよ。」
後ろ手に回した腕で、哉汰は物凄い形相の渡良瀬から更に柚を護るように彼女を自分の真後ろへそっと導いた。
柚も哉汰のシャツを縋るように両手に掴んだまま俯き、唇を噛んだ。
「柚。忘れたわけじゃないだろ?なあ。あの夜言ってくれたじゃん。」
不気味な猫撫で声が自分の身体越しに柚へと向けられ、背中のシャツを掴む彼女の手に力が入ったのを、哉汰は感じた。
しかしわざと羞恥と憤懣を煽るかのように渡良瀬は追い打ちをかける。
「“先輩のもの”だって。…すげー可愛い、エッチな声でさ。」
「やめて!!」
真っ赤になった柚が悲痛に叫んだのにシンクロするように、ドカッと鈍い音がした。
「…ってぇなあ、テメ!」
殴られた頬を押さえながら激高した渡良瀬は振り向きざま、反撃を見舞おうと身構えたが。
振り仰いだその哉汰も凄まじい怒気を含んだ顔で彼を睨み返していて、咄嗟に怯んだ。
殺気すら孕んだ視線で見据えながら、哉汰は低く呟いた。
「…サイテーだな。」