わかれあげまん




急くように総務棟の方角へと向かいながらルチアは携帯電話をコールした。


程なく通信に応じた誰かに足を止めると、ルチアはひっそりとした渡り廊下の石柱に身を潜める様に凭れ、母国語で深刻そうに何かを喋り始めた。






* * *






ちょうどその頃VD1部屋に戻ってきた哉汰は、扉を開けたまま一瞬足を止め前を見据えた。


中央の応接ソファに背を向け座っていた長身細身の男がこちらを振り返り、挑戦的に口角をもたげた。


「ああ、戻ってきたね、藤宮くん。」


にこやかに声を掛けてきたのは、その彼の向かい側に座っていた専攻教授だった。


「じゃ、一回生の諸君が全員揃った所で改めて紹介と行こうかな。渡良瀬くん。」


投げられた渡良瀬がゆらりとソファから立ち上がり、踵を返した。


そして自信に満ちたきつい眼差しで哉汰を据え、


「どうも~。今月からデザイン科の教務実習に来た、渡良瀬徹でーす。」


と軽々しく敬礼をして見せた。


「教務実習?」


低めた声でそう繰り返す哉汰に、してやったりと言わんばかりに渡良瀬はくくっと喉を鳴らした。



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