わかれあげまん
柚は生徒たちと二、三言葉を交わしたあと、入口で手続きを進めている哉汰の元へとテテっと走り寄った。
「ゴメンナサイ、もしかしてあたし、一番最後…」
息を弾ませながらあたりを見回し言う柚に、哉汰は別にとあえて無愛想に答えた。
「いいよ。これから入るんだし」
「う、うん、ありがと」
嬉しそうに言った柚に、哉汰はようやくまともに視線を合わせた。
真顔のまま注意深く探るように彼女の顔を窺う。
「……」
「え?な、なに?」
きょとんと哉汰を見上げ首を傾げる柚。
どうやら渡良瀬の実習の件はまだ、彼女の耳には入ってなさそうだ。
そう判断した哉汰は少しホッとしたように肩から力を抜いた。
とはいえ狭い大学だからな。
この人の耳に届くのも時間の問題なんだろうけど。
「別に。…じゃ、入場するから生徒等誘導してきてくれますか。」
「あ、了解!」
そう答え踵を返すと、柚は生徒たちを召集すべく再びそっちへと走って行った。