わかれあげまん
「…だから。話があるなら今ここですればいいだろ!?何!」
哉汰のそう少し荒げた声が耳に届き、柚は思わず足を止めた。
「…。」
「…?」
「………っ。」
長い沈黙の後短く舌打ちをし、苛立つように哉汰は携帯を切った。
深刻そうに眉間に皺を寄せ、視線を足元に置いたまま一度深く溜息をついた彼に。
「…ど、どうしたの?」
と思わず柚も声を掛けた。
「…。悪い。これから実家帰んなきゃならなくなった。」
視線を上げず、哉汰はぶすっとした低い声でそう告げた。
あ、もしかして。…
「今の電話って…藤宮くんの、おとうさん?」
「・・・ああ。」
「そ、そっか。やっぱし。どしたの?お父さん、なんて?」
哉汰はやっとその不機嫌な視線を上げながら柚を見て。
「話があるからすぐ来いって呼び出し。強引なんだよいつも。自分のペースばっか優先しやがって」
それから自分の肩に掛けていた柚のバッグのストラップを申し訳なさそうに彼女に手渡した。
「ごめん。送りたかったけど、…今日は一人で帰ってくれる?」
「も、もちろん。平気だから気にしないで?」
「気をつけてな。今日はアシストありがとうな…それじゃ。」
「うん。藤宮くんも!」
一瞬だけ口端を持ち上げてから再び渋い表情に戻り、哉汰は車に乗り込みエンジンを掛けた。
柚は少し脇に退き、哉汰の車を見送った。
これ以上一緒に過ごさずに済んでホッとする一方、なんだか少々父親と折り合いが悪そうな哉汰のことが、ほんの少し気がかりな柚だった。