わかれあげまん
やがて小さな銀のバンは夜の閑静な住宅街に滑り込み、ある大きな邸宅の車庫の前に到着した。
高級感のあるモダンな木製の跳ね上げ式のガレージドアがゆっくりと開き始めた。
哉汰の車のエンジン音を聞きつけ、屋内から操作されたようだ。
二台分のスペースのひとつに、真っ赤なアルファロメオのクラシックカー。
その隣の空いた方のスペースに、哉汰はゆっくりとバックで納車した。
憮然としたまま車を降り、哉汰はガレージ奥の勝手口から家の中へと入った。
キッチン奥から現れた哉汰に最初に声を掛けたのは彼の母親だった。
「哉汰。久しぶりに帰ったと思ったら何よ、こんなところから。玄関から入りなさいよ」
「…どうでもいいじゃん」
ぶっきらぼうに答え、顰め面の母親の真横を早足に過ぎようとした。
「ちょっと、何?もう~、煙草臭い!…」
「…」
「リビングにお客さんもいるのよ!?」
「!」