わかれあげまん
彼の指摘どおり、柚の体調はもう午後からの授業どころじゃなかった。
彼の肩に捕まったまま柚は、情けなさ全開でおとなしく医務室へと運ばれた。
あまりに鮮烈な展開にしおしおしつつも、
細い割に力あるんだなーこの人。
と、ぽかんと口をあけたまま、彼の凛とした横顔を見ていた。
がらりと医務室の引き戸を開け中をうかがうと。
「あー。今井さん出張か」
と呟く彼。
間近に聞くと、何気に声も心地よく滑らかなテノールボイス。
“今井さん”というのはこの大学の校医の名だ。
見れば入口のところに立て札が立てられており、
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本日校医出張中。
重症発生時は内線で総務に連絡して下さい。
軽症者については処置後、各自で報告日誌に記入して下さい。
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と書かれている。
その立て札を読んでから、彼はチラリと柚の顔を見て。
「とりあえずあっちで、横になっとけば」
「……ハイ」
しょんぼり返す柚。