わかれあげまん
「ルゥ、パパに命じられた。カナタの傍に…日本に行って、こっちに連れて帰って来いって。…最初はそのつもりでカナタに近づいた…。」
ルチアは憤りに震える隣の哉汰を心配そうに覗きこみながら、続けた。
「けど、…一緒に過ごしてるうち、ホントに…愛するようになったの。ルゥ、カナタの事好き。…お願い、一緒にイタリアに来て?パパの仕事、手伝って、ずっとルゥの近くにいて…?」
そっと膝に置かれたルチアの綺麗な手を、哉汰はすぐに払いのけた。
「カナタ…」
悲しそうに声を詰まらせるルチアに。
「子どもじみた拗ね方は止せ、哉汰。…自分の立場をわきまえろ。」
「立場!?立場って何だよ!!ふざけんな。俺はあんたのビジネスの小道具じゃないんだ!!」
「俺はな、お前の行く先を心配してるんだ!ヴィジュアルデザインなどというお茶らけた道になど進んで、何になるって言うんだ!!」
「うるっせえよ!」
勢い任せに立ち上がり、踵を返すと哉汰はつかつかとリビングの出口に向かった。
そこに、母がトレイにお茶を入れ立っていた。
「ちょっと、…哉汰?」
狼狽して声を掛けた母にものも言わず、入ってきたキッチンの裏手へと回る。