わかれあげまん
裏口でしゃがみ、荒っぽくブーツに足を突っ込む哉汰の背中に、母の声が飛んできた。
「哉汰ちょっと!どこ行くつもりなの!?…」
「帰る。」
はあ、と重い溜息をついた後、母は静かに付け加えた。
「10分も経ってないじゃないの。…自分の人生の話でしょ!?無責任に逃げ回ってないで、言いたい事あるならちゃんと伝えなきゃ!」
ともすれば少しは哉汰の味方とも取れる母の助言だったが、哉汰の靴紐を結ぶ手は止まらなかった。
笑わせんなよな。
いきなりこんなシチュエーションで迎えられて、何が人生の話だ?
滑稽すぎて薄笑いすら込み上げてくる。
「おい。言っとくがどう足掻いても無駄だからな。お前は3年後卒業したら即イタリアに渡りエテルナに入所するんだ。そこで精鋭建築家としてのノウハウを、一から学んでくるんだ!」
いつの間にか母の横に立ち煙草をくゆらせながらゆったりと言う父・静司に。
「お父さんも!もういい加減にして頂戴!…哉汰にだって自分の意思が」
「お前は黙ってろ。」
母の言葉を苛立つように遮った身勝手な静司の台詞を背で聞きながら、哉汰は勝手口のドアを出た。