わかれあげまん
* * *
「まったく強引過ぎるのよ、あなたは。」
残されたリビングで哉汰の母は、冷めてしまったお茶を口につけながら静かに静司に言った。
「親として一人息子の行く末を心配するのが、当然のことじゃないってのか?」
「あなたのそれは心配じゃなくて、支配よ。哉汰の人生まで管理しようとするなんて…去り際のあの子の顔を見た?酷く傷ついた顔してたわ…」
「…。」
言葉に行き詰まり、苦し紛れに静司は苦い顔をしたまままた新しい煙草に火をつけた。
「興味を持ってくれたんだぞ?俺の息子に!あの建築界の世界的巨匠フランコが!…しかもわざわざ自分の娘まで迎えによこしてくれたんだ!こんなチャンスを無碍にしろってのか!?」
「誰にとってのチャンス!?」
「…。」
「…哉汰のじゃない。あなにとってのチャンスじゃない。あの子の言うとおりあなたは大事な息子をビジネスの道具にしようとしてるだけじゃない。私は哉汰のイタリア行きは断固反対だからね!」
言うだけ言うと、哉汰の母は涼やかに立ち上がり、そそくさと二回へ上がってしまった。