わかれあげまん
乗り込んでみてすぐに分かったことは、総生徒数200人を超える美術研究所を経営する所長とあって、彼の車は相当な高級車だということだった。
「うわ~。ベンベだベンベ!」
ハンドルの真ん中でこれみよがしに輝くエンブレムを柚は興味深々で覗きこんだり、
アクセサリをきょろきょろと見渡しては無遠慮に弄ってみたり。
…藤宮くんの車とはぜんぜん違うなあ…
そう頭を過ぎったかと思うと、不意に柚は助手席のシートで佇まいを正し、ピンと背筋を伸ばして固まってしまった。
「…お、…おちつかない・・・」
やたら座り心地のいいこのシートも。
真新しい革の独特の匂いも。
あたしにはちょっと、品格ありすぎ…
少し息苦しささえ感じ始めたとき、漸くドライバー席のドアが開き、身支度を済ませた所長が滑り込んできた。
「お待たせ~!…お!何かいい匂いになってる♪」
「…へっ?」