わかれあげまん
藪の向こうからついに姿を現したのは、驚いたことに一台のタクシーだった。
こんな辺鄙な山には実にそぐわない光景だ。
哉汰が眩しさに目を眇めながらそっちを振り返った時。
いつものように崖の方へ向けとめられた哉汰のバンの真後ろで、タクシーは急ブレーキを掛けた。
「…」
パタン、とタクシーのドアが開かれ、柔かくほのかな希望のように灯されたオレンジ色の車内灯に浮かび上がった人物に、哉汰は愕然と目を見開いた。
振り向いたまま動けずに、じっとそちらを見続けていた。
精算を済ませ降り立ったその小さな人物は、何事もなかったように走り去ったタクシーの向こう側で闇に飲まれ。
「……。」
カサ、カサと枯れ草を踏みしめ、こちらに近づく控えめな足音に。
ドクン、と哉汰の心臓は大きく跳ねた。