わかれあげまん
変なの。
あたしの名前聞いてもあんまり、というか全然動じてなさそう……
あれ、もしかして・・・もしかしたら、噂を知らないの?
柚は二日酔いでむかつく胸を撫でながら、訝しげに彼の方を見やり、尋ねてみた。
「あの〜…あたしの事、…名前。知ってますよね?」
「……」
柚の言う事などまるで聞こえていないかのように、椅子に座り黙々と日誌に記入し続ける横顔は非常に精悍で。
長引く沈黙に、柚の違和感は更に降り積もってく。
な、何この人。
何か異様に落ち着いてない?
しかし随分間を置き、さらさらと日誌にペンを走らせつつ彼が返した言葉は。
「知ってるよ」
だった。
しかもその形よい唇が意味ありげに弧を描いている。
何よぅ。
やっぱり知ってんじゃん。
柚はガクリと頭を垂れた。
すると、
「よし、出来た。」
とペンを置き呟いて、
パタンと日誌を閉じると、彼はやっとゆっくり、柚の方へと涼やかな視線を向けてきた。